中小企業診断士2次試験の勉強法

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中小企業診断士2次試験の勉強法

2次試験対策が難しい理由

中小企業診断士の2次試験は試験対策が難しい試験であるといわれています。

その理由は、2次試験の試験方式が記述式であり、かつ

  • 解答が公表されない
  • 正答の範囲に幅がある

という2つ要素が加わるため

「この問題にはこう解答すれば合格できる!」

という明確な答えが存在しないからです。

そんな試験なら対策の打ちようがないように一見思えますが、実際には各年度の問題と合格者の答案を分析し、

「概ねこのような要素がこのレベルで記述できていれば合格ライン」

という解答モデルを導き出すことで、対策は可能です。

2次試験では何が求められるか

2次試験で求められるものは

  • 読解力
  • 思考力
  • 記述力

の3つです。

1次試験とは違い「知識量」がほぼ問われない出題内容となります。

ここで平成28年度の2次試験の「事例Ⅰ」を例として、具体的にどのような出題形式かを確認してみましょう。

なお、2次試験の出題は

  • 事例 I(組織・人事)
  • 事例 II (マーケティング・流通)
  • 事例 III(生産・技術)
  • 事例 IV (財務・会計)

の4題となり、この事例Ⅰは組織・人事に関わる問題で、主に1次試験の企業経営理論と関係する内容となります。

2次試験ではまず以下のような「与件文」と呼ばれる文章が与えられます。

※かなり長くなりますので、ここでは簡単に読みとばして下さい。

A 社は、大正時代の半ばに現社長の祖父が創業した、資本金4,000万円の地方都市に本社を置く老舗印刷業者である。戦後まもなく株式会社に改組してから一族で経営を承継し、A社社長は代目である。現在のA社の売上はおよそ15億円であるが、リーマンショック以降売上は減少傾向で、ここ数年利益もほとんど出ておらず、赤字経営に近い状態で推移している。

A社社長の目下の経営課題は、売上や利益を確保し100年近い同社の歴史を絶やさないことにある。しかし、こうした厳しい経営状況にもかかわらず、およそ150人前後で推移してきた従業員(非正規社員15人前後を含む)のリストラをA社社長自身考えていない。

A社ではこれまでも経営理念の一つとして掲げてきた「社員は宝」のスローガンの下で、新卒社員や女性社員の採用を積極的に進め、人件費以外の部分で効率化を図ることに注力してきた。A 社の売上の 70 %程度を占めているのは、卒業式前後に生徒・学生に配布する学校アルバム事業であり、創業以来の主力製品である。現在、全国およそ 3,000校のアルバム制作を手掛け、年間の学校アルバム製造部数は30万部を超えている。製版から製本までのアルバム制作の全工程を一貫して自社内で行っており、国内シェアもトップクラスである。残りの売上の30%を占めているのは、1970年代から取り組んできた一般印刷事業、1980年代にスタートさせた美術印刷事業とその他新規事業である。

A社の業績が悪化し始めたのは、2000年代になってからのことであり、それ以前、同社の業績は右肩上がりで推移していた。1990年代半ばの売上は、現在よりも10億円以上も多く、経常利益率も10%を超えていた。当時のA社の成長を支えてきた要因の一つは、今日でも経営理念として引き継がれている人材力の強化、すなわち社員教育の成果にあったといえる。

1970年代半ばに代目社長が、他社に先駆けてオフセット印刷機を導入したのを契機にして、独自で技術開発に取り組んで印刷精度を向上させた。それによって学校アルバム事業を拡大させ、高い印刷精度が求められる美術印刷事業にも参入している。また、社員教育に力を注ぎ、企画力やデザイン力を強化・向上させたことで、他社と差別化を図ることもできるようになった。さらに、教育効果を高めるために、1980年代半ばには、自社所有の遊休地に研修施設を建設し、新入社員研修や従業員の体験学習、小集団活動を積極的に促してきた。

1980年代後半、将来の少子化時代の到来やOA(オフィス・オートメーション化)の進展が見込まれるようになると、順調に事業を拡大させてきたA社でも、学校アルバム事業や印刷事業の成長の可能性に懸念を抱くようになり、事業多角化を模索し始めた。代目社長のリーダーシップの下で、自社企画のカレンダーやメモ帳、レターセットなどの印刷関連のオリジナル製品を開発し、商品見本市などでの販売を開始した。その一方で、自社での社員教育の成功体験や施設を活かすことを目的とした企業研修事業や、工芸教室などの教育関連事業にも参入した。

また、当時の CI(コーポレート・アイデンティティ)ブームの下で、地元のコンサルティング会社と提携して、企業イメージのトータルデザインを手掛けるコンサルティング事業や自らの顧客である写真館の店舗デザインを助言するといった事業を手掛けるようになった。さらに、漫画雑誌やタウン誌を編集し発行する出版事業にも手を伸ばした。もっとも1990年代後半にあっても売上のおよそ80%を学校アルバム事業が占めていることから、業績伸張の要因は、1980年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。2000年代になると、4代目社長が他社に先駆けて進めてきたデジタル化によって、時間やコストの大幅な削減が実現された。

しかし、現社長が就任した2003年を前後して、印刷業界の経営環境が大きく変化した。インターネットが急速に普及し始めて、出版系の需要が大幅に減少した。加えて、印刷のデジタル化によって専門性の高い製版技術が不要になり、他業種から印刷事業への新規参入が急増するようになった。印刷業界では、新規参入企業との価格競争が激化し、1998年以降の約10 年間で市場規模が2兆円以上縮小し、少なからぬ企業がこの市場からの撤退を余儀なくされた。その厳しい状況の中で、A 社社長は100年の歴史を背負うことになったのである。

さらに、2008年のリーマンショックの余波が、印刷業界を襲った。少子高齢化、価格競争の激化、景気低迷といった逆風の中で、このままでは生き残ることさえ難しいと感じたA社社長は、経営改革を決意した。まず着手したのは、多角化した事業に分散していた経営資源を主力製品であるアルバムに集中し強化することであった。

少子化の中で学校数が減少し学校アルバム市場が縮小するとともに、デジタルカメラの普及以来、それまで学校とのパイプ役を果たしていた地域の写真館の数が減少する中で事業規模を維持していくためには、アルバムの新たな市場や需要を開拓することが不可欠となった。そこで、ターゲット市場を学校だけに限るのではなく、美術館や企業、そして一般消費者のアルバム需要を掘り起こすことに力を入れる体制作りをスタートさせた。少量印刷・高品質印刷が可能な最先端のデジタル印刷機を導入して、得意としてきた美術印刷事業のさらなる強化に加え、定年退職者の記念アルバムや子供の成長記録アルバムの商品化など新規事業を立ち上げた。とはいえ、それら事業を展開するためには、これまでの学校アルバム事業と異なる営業戦略、事業運営体制が必要となる。生産現場の従業員を営業担当に配置換えするとともに、巨大な潜在市場を抱える大都市圏にも営業所を設けるなどして、営業力強化の体制作りに取り組んだ。

それと同時に、組織改革にも着手した。「営業⇒企画⇒編集⇒印刷⇒製本⇒発送」といった一連の工程を中心に学校アルバム事業に適応するよう編成してきた機能別組織体制を見直し、アルバム事業、一般印刷事業、美術印刷事業、教育関連事業など、複数の事業間に横串を刺すことによって、全社が連動し人材の流動性を確保できるような組織に改変した。

いうまでもなく、A社の経営改革が結実するまでには時を待たなければならないが、労働人口の減少が著しい地方都市にあって100年の節目を迎えるためにも、さらなる経営改革の推進とともに、それを実現していく有能な人材の確保が必要であることは確かである。

この与件文は約2600字ですが、概ね平均的な文章量となります。

そしてこの「与件文」を読んだ上で以下の問題に解答していきます。

第1問(配点 40 点)
業績が好調であった A 社の代目社長の時代に進められた事業展開について、以下の設問に答えよ。

設問1

当初立ち上げた一般印刷事業などの事業展開によって A 社は成長を遂げることができた。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で述べよ。

設問2

1990年代後半になっても売上の大半を学校アルバム事業が占めており、A社の3代目社長が推し進めた新規事業が大きな成果を上げてきたとはいえない状況であった。その要因として、どのようなことが考えられるか。100字以内で述べよ。

第2問(配点 40 点)
A 社の現社長(5代目)の経営改革に関連して、以下の設問に答えよ。

(設問1)
A社が、新規のアルバム事業を拡大していく際に留意すべき点について、これまでの学校アルバム事業の展開との違いを考慮しながら、中小企業診断士として、どのような助言をするか。100字以内で述べよ。
(設問2)
A社では、これまで、学校アルバム事業を中核に据えた機能別組織体制を採用していたが、複数の事業間で全社的に人材の流動性を確保する組織に改変した理由を、100字以内で述べよ。

第3問 (配点 20 点)
業績低迷が続く A社が有能な人材を確保していくためには、どういった人事施策を導入することが有効であると考えられるか。中小企業診断士として、100字以内で 助言せよ。

この問題では全て100字以内の解答を求められていますが、問題によって20字から200字程度の幅があります。

2次試験の試験時間はひとつの事例ごとに80分ですから、その時間内に与件文から問題作成者の出題意図を読み取り、正しい考え方で解答を導き出し、かつその答えを採点する側に伝わるように記述しなければなりません。

もちろん解答は、「自分はこう思う」という意見を書くわけではなく、与件文に示された企業の状況、外部環境、強みや弱みなどを正確に読み取り、論理的に考え答えを導き出す必要があります。

2次試験に必要な能力が読解力・思考力・記述力と述べた理由がお分かりいただけたでしょうか。

言い得れば、与件文を正しく理解し(読解力)、論理的に考えて(思考力)、伝わる文章を作成する(記述力)ことが求められる試験であるといえます。

2次試験対策は過去問と添削問題で決まり

このような形式の2次試験に合格する能力を身につけるためには、まずは過去問を解き、与件文の読み解き方と、そこからどのように解答を導き出すのかという解法のパターンを身につける必要があります。

また、80分という限られた時間で与件文を読み解き、解答を書き切るためのトレーニングも欠かせません。

そしてある程度それが身についた段階で、必ず行いたいのが通信講座などの添削問題です。

解答が決まっているマークシート形式の問題であれば、予想問題や問題集を解いて答え合わせをすることで、自分の実力がどの程度のレベルにあるのかが判断できますが、正答がひとつではない2次試験の場合、客観的第三者による解答の評価は必須です。

このような点から、中小企業診断士についていえば、仮に独学でチャレンジしたとしたら、1次試験はなんとかなるとしても、2次を突破するのは至難の技であり、多くの場合何年にも渡る受験勉強を強いられる結果になると思います。

事例Ⅳだけは異なる対策法

2次試験の中で、事例Ⅳだけは異なる対策が必要です。

事例Ⅳは、財務分析を中心として出題されるため、「計算力」が問われるからです。

その意味では解答も明確であり、過去問や問題集による対策が有効なので、なるべく多くの問題を解いていくことで確実に力をつけることができます。

しっかり対策を行えば2次試験の中では、唯一確実に点数が見込める科目なので、1次試験と共通の科目であることもあり「財務会計」が診断士試験突破のカギとなるといわれるゆえんです。

なお、1次試験の財務会計では電卓持ち込み禁止でしたが、2次試験でも持ち込み可能です。

ストレートで1次試験、2次試験を突破するには

中小企業診断士試験を一発合格するのが難しい最大の理由は、ここまで違う形式の1次試験と2次試験の間が約2カ月程度しかないことです。

ちなみに1次試験の合格発表から2次試験までは約1カ月です。

ということで、ストレートで合格を目指すには1次試験後、ましてや1次試験合格発表後から対策を打っても遅すぎます。

ストレート合格を目指すのであれば、1次試験の学習の開始時から、2次試験を意識しながら勉強を進めることが絶対条件に近いでしょう。

1次試験の科目で2次試験に関連する科目は以下の通りです。

特に関連のある科目

  • 企業経営理論
  • 運営管理
  • 財務・会計

関連のある科目

  • 経営情報システム

やや関連のある科目

  • 中小企業診経営・中小企業政策

このことをふまえ、学習の力の入れ方にメリハリをつけることに加え、実際に手を動かしての記述対策はしないまでも、2次試験の過去問題の読み込み程度はしておくことが必要でしょう。

もちろん、1次試験に落ちてしまっては元も子も無いので、そのあたりは自分の学習進捗状況を冷静に考えてバランスを取ることも必要であり、学習戦略の立て方がとても大切になります。

まとめ

ここまで見てきたように、中小企業診断士試験で最も難関である2次筆記試験には、マークシート形式の記憶力、知識力で対応できる試験とは全く異なる対策が必要です。

初めて問題を見たときには、とても解けそうもないと感じる方も多いと思いますが、それでも毎年約2割は合格する試験です。

完全に正しい答えを解答する必要はなく、あくまでも他人との競争で上位2割に入れば良いわけです。

この記事を参考にピントのあった2次試験対策で是非難関を突破して下さい!